涼宮ハルヒ シリーズ  二次創作
キョン子の探索
〜第一話〜

文:Tarota
絵:甘野氷


『あるひ突然』という言葉がある。いやしかしこの場合は、『ハルヒ突然』と言った方が的確なのではないだろうか?どうせまた、あいつの何だか解らないインチキじみた力が働いたに決まっているからだ!きっとまた理由も本人が楽しみたいとかそういった類の事だろう、それに毎度の如く巻き込まれる身にもなって欲しいものだ。
そうさ、俺はまたトンデモない事態に巻き込まれていたのだ。それもとびっきり強烈な事態に…。
いいか…落ち着いて聞けよ…。って誰に話かけているんだ俺は!こんな感じでいい感じに頭が混乱している。
とにかく…。
ある日突然、朝起きると俺は女なってしまっていたのだ。
いや!マジで!!!

その日の朝、いつものように妹に起こされ、寝惚けた眼で鏡に対峙して、最初は何の事だか解らなかった。
鏡に映る己が姿にまったくの見覚えが無かったからだ。
寝惚け顔の女の子が洗顔の水を滴らせたままこちらを見つめている。
どうも…といった感じで咄嗟に会釈をしたならば、見知らぬ女の子も同じ様に行動してくる訳だが。あんた誰だよ?というツッコミをする余裕も無いままに、俺はボンヤリと歯磨きをする少女の様子を眺めていた訳だ。
可愛い娘だな…と思った事は事実だ。自我自賛ではなく、その時には本当に可愛らしい女の子の姿をボンヤリと夢の続き位に思って眺めていた訳だ。
そのまま事実に気がつかなければ或いは幸せだったのかもしれない。そのまま二度寝に突入すれば良かったのかもしれないが、生憎と俺はふと気になって後ろを振り返るという選択をしてしまった。そこには誰も居ない訳で、ようやく回ってきた頭で冷静になって考えると、鏡に映のは自分しかいない。とすると、目の前の可愛いらしい女の子は俺だということか?

しゃこしゃこ…と動かす歯ブラシの動き、小首を傾げれば向こうも同じ動作をする。
そして決定的な事には、反対の手で頬を触れば柔らかい肌の手触りで、その上に鏡の向こうも同じ仕草でキョトンとした眠たそうな瞳で俺を見返してくる。

おいおいおい…冗談じゃないぞ…

鏡に身を乗り出してじっと見つめる先には、いつもの俺の特徴を微妙に残しつつも、腰まで届くボサボサの長い髪でピンクの寝巻きを着込んだ女性が歯ブラシを咥えて凝視する姿が映っている。
そういえば随分と頭が重いというか、耳の周りを何か覆っている感覚が急に押し寄せてきた。試しにその長い髪を引っ張ってみれば、柔らかく艶々で細い女の子の髪の毛の感触で…俺の頭から生えているものだという事も痛覚がご丁寧にも教えてくれた。
どうやら本当に鏡に映っている姿が俺の物らしい。だとしたら…。
俺はだらしなくはだけたピンクのパジャマからチラリと覗く、可愛いらしい鎖骨の窪みとそこから下に向かって描かれたなだらかなカーブを見つめていた。この中身までも本当に自分の身に降りかかった事態と同じ結果なのだろうか?自分の身に何が起こっているのか確かめるのは実に重要な事で、躊躇う必要はないよな。
俺は両手を胸に当てていた。そして明らかに掴んでいた。慎ましくも明らかな膨らみが掌に感じられる。感じたことのない柔らかい感触と、掴まれて変形させられたという胸からの信号が同時に伝わってきた。
乳房とかおっぱいとか形容はどうでもいいが、女性の膨らみが俺の胸に備わっているのは確かなようだ。感動が無いといったら、そりゃあ嘘になるが、何しろ自分の身体なのである。柔らかな揉み応えは楽しいが、執拗に力を入れて捏ね回すのは痛いものだと思い知らされるだけだ。

ここまで完璧に女の子の身体になっているとしたら…。

今更になって、毎朝自己主張する相棒が今日はやけに大人しい事に気がついた。長年連れ添って来た大事な男の象徴たるソイツは今のこの身体に存在する場所などあるのだろうか?
結論から言うと勿論居場所は無かった。
股の間を掴んでみれば、見事にペタリと障害物もなくお尻の方まで触れてしまい、その間にあった大事な障害物の存在は微塵も感じられないのだ。
一瞬、軽く昏倒しそうになる。
これが俺の巻き込まれたトンデモナイ事態の全貌だ。ついに災厄は、比喩ではなく文字通り『我が身』に降りかかってきたのだ。そしてこれは事態の全貌であって、出来事全体からみればほんの入り口でしかなかったのだ。

「あ!キョンちゃん…まだこんな所でボーっとしてる!!早く朝ごはん食べないと間に合わなくなるよぉ〜」
俺が強烈な眩暈に襲われている中、妹が後ろから声を掛けてきた。
女の子になった兄を笑ってくれ…と振り返ってみるが特段驚いた様子もなく。
「はやくぅ〜!早くぅ〜!」
いつもの調子で囃し立てる。
いや、まて…妹よ…俺を何て呼んだ?
「キョンちゃん…どうしたの?またセイリが重いの?」
何てこったい、女の子として扱われているではないか。俺が男だという設定はどこに行ってしまったんだ?それとも、そう思っているだけで、本当は最初からこの身体だったのか?いやいやいや…確かに俺は男だった、その自我はちゃんとある。これが作り物の記憶だとは思いたくない。
鏡の向こうに、少女がやれやれと俯いている姿が映るのだった。


朝食を済ませ自分の部屋へと戻ると、いよいよ世界が変革されている事が強く解った。
起きたときにはボーっとしていて気がつかなかったが、見事なまでに女の子部屋なのである。
可愛らしい色使いに溢れ、化粧台とか小物入れとか今までに見たことも無い物まで並んでいる。洋服ダンスの扉の前に掛けられた制服は学校のものに間違いないが、ご丁寧にも女子指定制服に変えられている。
着るのか?俺が?これを?冗談じゃない、だってこれスカートなんだぞ!
とは言ってもこれしかない訳だし、今の姿に似合いそうだって事位は解っている。学校を休むという選択肢が無いわけでもないのだが、ここはもう俺が女の子として日常を送っている世界で間違いなさそうだ。だとしたら、この珍妙な世界からの脱出の鍵を握っているであろう、ハルヒや長門に会う必要がある。
ええい!
俺は覚悟を決めると着替える事にした。当然、着替えるには脱ぐしかなく、ピンクのパジャマに手をかけた。
薄絹一枚の向こう側、今や俺の身体はすっかり女の子していた。小振りな胸の頂上には綺麗な桜色の乳首がちょこんと乗っかっている。細い胴体にこれまた可愛らしい御臍の穴。俺の知っている俺の肉体はどこにも無く、今までより2〜3回りは小さくて柔らかそうで色白いものに全て置き換えられていた。
上半身だけでこの違いである、下半身はと言えば…俺が履いていたパンツ…これもまた女の子の代物で布が股間にピッタリとフィットしていて、その上に何と水色の縞模様なのである。何てこったい。そりゃまぁ、こういう光景をいつか見たいとは思っていたが、まさか知らない内に実践でそれを知る事になろうとは…。
そして両脚も脛毛なんて生えて無い綺麗で細い物にこれまた置き換わっていた訳だ。
こうして鏡台に映し出された姿に眼を奪われてしまうのも、俺の中身が健全な男子だという証に他ならないよな。じっくりとアレコレ弄り回してみたい所なのだが、生憎と時間が押し迫っている。
俺は溜息一つ吐き出すと、ハンガーに掛けられた制服を手に取った。女子の制服の着方は解らなかったが、あれこれと弄っている内にファスナーを発見し、ついでに襟と襟の間の空間にあるパーツが外れる事も理解した。成る程、結局のところ穴を広げて下から被ってしまえば良いのか。
早速身につけてみて何か違和感を感じる。胸の辺りが落ち着かない気分なのだ。ゴワゴワするような感じがする。
ひょっとしてこれは…あれか…アレをしてない所為なのか…。冗談じゃない…流石にそれは男の沽券に関わる問題だ。タンスの中に仕舞われているであろうアレを漁り出して、あまつさえ身につけねばならないなど、どう考えたって男のする事じゃあない。
だからといって、このまま外に出るというのは今度は女としてはどうか?という問題に突き当たる。
仕方がない。ここでは息をするのと同じくらいに当然な事なのだと納得して、タンスの中を覗く事にする。
カラフルな布地の洪水に頭がクラクラとする。小さく丸められたパンツの数々に、きちんと並べられたブラの数々。ごめんなさい、無理です。今すぐにはこの現実と向き合う事なんて出来ません。
引き出しを閉じると、何気なく下段も開けてみた。そこにはシャツ類が仕舞われていて…。ん?これはひょっとして…スリップとか呼ばれるものじゃないのか?花模様の可愛らしい肌着だが、ブラをつけるよりは遥かに抵抗が少ない。幸いな事に胸はそんなに大きい訳じゃないし、これで事が足りるのではなかろうか。俺はそいつを身につけて再び制服の上着を着込むと、今度はさっきよりも違和感が少ない。けれど、今まで無かった胸があるという違和感はどうしても拭い捨てられない。
三角のパーツをスナップで止め、長門がよく着ているこげ茶のカーディガンも掛かっていたのでそれも着込み、ようやく上半身はクリアした。
残るはスカート。勿論、腰に巻きつけてベルトで止めれば終了なのだが、正直これだけしかないと非常に心許ない訳だ。何しろ下が大きく開いていて、外気と隔てるのはパンツだけなんだぞ!こんなに頼りないもので外を出歩かなくてはならないのか…。鏡台の向こうの少女が再びやれやれと肩を竦める。
そう、鏡に映っているのは北高の制服を身につけた見知らぬ少女だ。
中々可愛らしいんだが、ボサボサの髪の毛がみっともないと思わないか?
作業をしている間中、鬱陶しくも身体に纏わり付く長い髪の毛。寝癖がついたままでグシャグシャだ。俺は鏡台からブラシを取ると髪の毛を梳いていく。この長さではじっくり手を掛けていては時間が足りない。寝癖だけを直すと手を止めた。それにしても何だって俺の髪の毛は、こんなにも長く伸びているんだ?
ああ…すまん。本当は解っているんだ、こうしたい為だって…。


俺は鏡台の中から髪留め用のゴムを取ると、長い髪を頭の後ろで一本に縛った。そして余った横髪を耳に垂らせば…。ポニーテールにした女子生徒がそこにいた。やばい…強烈に可愛く見える。もし、これが今の俺で無かったとしたら一目見て告白してしまうのではと思える程に、俺の男心のツボを擽る容姿なのであった。
ひょっとしたらこれはハルヒの所為ではなく、ポニーテール好きが高じた俺自らに何らかの力が覚醒して変身したのではないだろうか?そんな風に思える程に俺の願望が形となった姿なのであった。

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例によって長い坂道を俺は登っていた。いつもの通学路だが、今の女の子な脚力では少々堪える労働だ。軽くなった体重のお陰で足取りそのものは軽く感じられるのだが、スカートは相変わらず有り得ないと思うようにスースーと風を送り込むのに熱心だ。
そして笑ってくれるなよ…。俺は今スカートから伸びる脚には膝の上まである靴下…そうオーバーニーソックスというヤツを履いているのだ。タンスの中にはぎっしりと、こんな靴下ばかりが入っていたから仕方ない。色とりどりの中からそれでも一番普通のをと黒いのを選んだ訳だ。縞のヤツとかもあったが、流石にそこまで吹っ切れてはいない。
今のところ知り合いに出会ってはいないが、どんな顔をして会えばいいのだろうか。俺が生まれた時から女だという事が当たり前の設定になっていると解っているんだが、妙に意識して恥ずかしくなりそうだ。実質的には女装している訳だから、谷口あたりに見られたら盛大に笑われそうな事態だ。いや、俺が最初から女ならば谷口と友達という間柄では無いだろう。恋人関係なんて考えたくもないが…。そうだよ、交友関係だって全然違っているだろうな。顔も覚えていないクラスメイトが親友だという事態は多いにありそうだ。
俺の不安を的中させるのが仕事の如く、眼に見えない運命の神はそれを実践してきた。具体的には俺の肩を叩く人物が現れたのである。
「お早うキョン子ちゃん」
眼鏡を掛けたポニーテールの娘が、俺の名前を呼びかけてきた。おいおい…俺は女の子として生まれていてもそのあだ名で周りから呼ばれているのか…。
「おはよう…由良さん」
知っている顔で助かった。というのもはっきり告白してしまえば、勿論ポニーテールのクラスメイトというだけでチェックしていた訳だ。残念ながら眼鏡属性の無い俺にとってそこまで特別な感情が芽生えなかった事も確かだ。
それにしても、こちらの世界では俺と由良さんは声を掛ける仲なのだという事か…まさかポニテ同士で仲良くなったとかそういうのじゃないだろうな?
あれこれと話題を振られるが、解る話もあるが大概は知らない話ばかりで、自然とお座なりな相槌になってしまう。
「そういえば、もうあれやらないの?」
校門の所まで辿りついた時、由良さんがそんな話を振ってきた。
あれとは何の事だ?
俺が思い当たらない顔をしていると、由良さんは言葉を続ける。
「ほら、あのバニーガールの格好をしてチラシを配っていたやつ!涼宮さんと、あと朝比奈さんも一緒にやっていたじゃない」
ああそうか…やはり俺はハルヒや朝比奈さんと一緒に活動しているのか…しかもあの格好を俺も一緒にした事になっているのか…。きっと他にも朝比奈さんと一緒に色んな格好を強引にさせられているんだろうな…そう思うと頭が痛くなってくる。
しかし、このときはまだ他人事のように考えていた節もある。まさか、今日中にそれを体験する事になるなんて思いも寄らなかったからな。

由良さんと一緒に教室に入り、辺りを見回すと知った顔もいれば知らない顔もいる。何か変だなと思いつつも、自分の席へと向かい…。まてよ…俺は窓際の後ろから二番目…ハルヒの前という座席で良いのだろうか?男女が交互に入り混じった席順だからハルヒの前の席は男でなければならず、今の俺には適合しないのではないだろうか?そして、やっと気がついた。教室に女子生徒しか居ないという事に。
谷口はおろか国木田の姿も見えない。一体どういう事だ?
俺が驚いて立ち尽くしていると、由良さんがどうしたの?と声を掛けてくる。
俺は聞いたさ…なんで女子ばかりなのかと…。
「あはは…。ここは女子高だもん、女の子しかいなくて当然だよ。男が欲しくなったの〜?」
何だって?北高が女子高だって?一体、いつから…。いや女子高なのは山の下のお嬢様学校であってここでない筈だ。
「え?少なくとも入学したときには女子高だったよ。それに坂の下の光陽園学院は共学だよ。今日のキョン子ちゃんはいつにも増して変だよ…大丈夫?悪い夢でも見たの?」
悪くても夢ならばどんなに良い事だろうか…。再び眩暈がしてきた、本格的に異世界を実感する。ハルヒが消えた世界でお嬢様学校が共学になった事があったが、この世界は逆にここが女子高になっている訳だ。そういえば…今思い返してみれば通学路は女子生徒で溢れていたように思う。
まさか、今俺が女の子の姿なのも、ここが女子高である所為では無いだろうかと思えてくる。ハルヒと同じ学校に居る為の必然として女の子になっている。頭の悪い設定だが、出会ってもいないよりかは幾らかマシだから謹んで拝命するとしよう。
「おはよう、キョン子!」
不意に背後から威圧的な声が掛けられた。忘れようも無いこの声の主はそうハルヒだ。
俺はまるで救いの神が…そういえばこいつが神だとか崇めているヤツもいるが…現れたように感じながら振り返った。全身に自信というオーラを纏わせた絶好調なハルヒの姿がそこにあった。
いつもならばハルヒがこの状態である時は何かロクでもない計画にみんなを巻き込もうとしている前触れなのだと警戒するのだが、このときばかりは頼もしく見えた。
「ボーっとそんな所に突っ立っていたら邪魔よ!さっさと席に座る!」
ハルヒに腕を引っ張られて、いつもの席に着席する。身長差が随分あったハルヒと俺だが、今やほぼ同じ位になっていた。力の差は逆転しているのを感じる。非力なのだ、この身体は。
「いい?キョン子。今日からはビシビシと活動するわよ!その為の計画を考えてきたから、放課後はすぐに部室に集合すること!いいわね!」
何というか、まったく変わっていないお言葉に、むしろ今は安心を感じる。存在が消えたと思ったあの時に比べたらやはり大分マシな世界なのでは無いだろうか?教室は女の子だらけな訳だし…俺まで女である事は別にしてだ。そう、俺はいつもと同じハルヒと出会って一瞬とはいえ忘れていたのかもしれない、女になっているんだという事を。だけれど、すぐにそれを思い知らされる事になる訳だ。

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