涼宮ハルヒ シリーズ 二次創作
キョン子の探索 (愛称:キョンたん)
〜第四話〜 ですの!
小説:Tarota ですわ。
挿絵:甘野氷 ですぅ。
朝の太陽の眩しさを嫌と云うほど再確認させられながら、俺はいつもの坂道でダラダラと脚を動かして続けていた。惰性という名の慣性運動に身を任せるのは脚が勝手に動いていくようで楽な感じだが、意識が介在しないだけで実際に動作しているのは紛れも無い自分の足なのだから疲労は後で利子をつけて払わされるのだ。油断すると重力に従って坂を転げそうにもなるしな。
なんで、こんなに疲れて寝不足なのかといえば、お察しのとおり昨夜の出来事が原因だ。
風呂から上がった後、当然のようにバスタオルで身体を拭いた訳なのだが、それだけの行為をしただけでも解るだろ…身体の違いは明白なのだ。
タオルを胸の辺りまで覆った状態に巻きつけて、拭くだけでも大変な髪の毛をドライヤーで乾かしにかかる。作業は思ったよりも重労働だ。たっぷりと水を吸い込んだ髪は、その既得権益を守るかのように中々手放してはくれないし、熱風を当て続けて頭がクラクラしてくるのだ。ポニーテールを結えるだけの質量を維持するのも大変だ。費用対効果としてはどうだろう?勿論、俺の中ではその議論を戦わせるまでもない。可愛いポニテ娘の為ならば苦労は厭わない所存という事さ。それが俺自身だったとしてもだ。
何とか作業を完了させれば、その対価をちょっとでも早く頂戴しようと思うのは仕方ないよな。俺は片手で素早く潤う髪の毛を集めると、掌を輪にしてポニーテールを作りだす。
鏡に映る湯上りに上気したポニテ娘は我が姿ながらとても可愛らしく、バスタオル一枚のみと随分と無防備で襲っちゃうぞ〜といった気分になってくる。この場合、襲われるのも自分な訳で、本当に複雑な気持ちにさせてくれる。
さてと、いつまでもこうしていても仕方がない。新しい下着を身につければ気分も一新されるだろう。ところが話は簡単に行く訳もなく、適当に選んだ白くて小さな布地…配色も装飾も大人しいという理由で選んだのだが実はこれが盛大な落とし穴だったのだ。
履いてから気がついたが、布の面積がやけに少ない所謂ハイレグカットなのだ。股間の溝の部分やお尻に食い込みそうな具合なで、何を考えてこんな下着を所持しているんだ、この世界の俺は……。
この場に下着はこれしか無いのだから仕方なくこのまま着るとして、胸の方は外出する訳でも無いし普通のインナーシャツで大丈夫だろう。部屋着替わりのジャージを身に纏って、ようやく長いバスタイムを終える事が出来た。
だけどまぁ、此処までの出来事ですら長い夜の始まりに過ぎなかった訳なんだがな。
この後、部屋に戻っても気になるのは股の辺り食い込むような布の感覚であって、お風呂上りのくつろぎモードに心が切り替わるには程遠かった。そうと決まればまずは替えの下着を探さなければならないだろう。
俺は今日何度目かになるタンスの中を漁るという行為に臨んだ。幾度目になろうとも色鮮やかな布の洪水は本当に目に毒だ。
ピンク色の薄いのとか、黒くてスケスケなのとか、縞やら水玉やらの模様に、果ては可愛らしいクマさん柄なんてのまでも揃っているんだぞ。シチュエーションが違えば美味しい状況なのかもしれないし、このままでも肌着の匂いを嗅ぎ回ったり被ったりして楽しめば良いのかもしれないが、生憎と俺にはそんな性癖はまだ開花していない。それは私のお稲荷さんでは無い訳だ。今は無いしな…。
なんとか普通のコットンパンツを発見する事が出来た。白くてワンポイントでリボンが付いている。そんなの普通でつまらんと思うのならば、自分で履くところを想像してみれば多少は俺の気持ちがご理解できる事と思う。
さっさと履き替えてしまおうと、ジャージのズボンに手を掛ける。感覚が伝える通りに細いパンツの布は、まるで十八禁修正の如く女の子の大事な溝の部分だけを隠した状態で、今にも食い込みそうになっていた。茂みの部分なんかはみ出していて見るに堪えないではないか。
さっさと……履き替え……るぞ……。
……。
すまん、ついグイグイとパンツを引っ張って食い込み過剰を視覚で堪能していた。こんな映像をリアルタイムで見る事ができる機会が訪れるのは当分ありそうもないのだから、ちょっと位は堪能してもいいよな自分の身体な訳だし。
風呂で随分と弄ってしまったとはいえ、客観的に見る事は出来なかったので、今ならば秘密の部分も観察してしまえるという寸法か……。
……。
この好奇心に勝つ事が出来る男性諸氏がいるのならば是非とも名乗り出て欲しい。
俺はパンツを脱ぎ捨てると鏡に向かって大股を開き、今や変わり果てた女性の部分を映し出すのであった。
そんな訳で本当は学校なぞ休んで寝ていたい処なのだが、生憎と我が家の目覚まし装置は高性能であり、起きなければ布団を剥がされて更に揺さぶってくるのだ。
加えて本日はSOS団の映画制作発表がある訳で、俺としてはどんな内容になるのかは既に経験済みの既定事項なのだが、行かないとハルヒが五月蝿いからな。万が一にも違う内容である可能性もあるしな、何といってもここは異世界なのだから油断は出来ない。
しかし、寝不足な頭で何とか放課後まで色々な女子高生活のイベントを掻い潜った末に俺を待っていたハルヒの製作発表は、やっぱり知っている内容のものであった。
すなわち、朝比奈さんと古泉が主演で、長門が脇役。監督とか脚本とか製作に関する事一切がハルヒの役目であり、俺は雑用一切を引き受けると、そういう事だ。因みに部室に集合したのはハルヒと俺と朝比奈さんだけで、古泉と長門は文化祭でのクラス出店準備があるのでこの場にはいない。
いつか見たのと同じ状況に、寸分違わぬノートの切れ端に書かれた文字、俺は盛大に溜息を吐いて見せた。
その音を耳聡いハルヒが聞き逃す筈もなく、
「何よキョン子、言いたい事があるなら言いなさいよ。聞くだけは聞いてあげるから」
別に文句はねぇよ…。言った処で無駄だというのは嫌というほど身に染みている。馬の耳に念仏ならばまだしも、ハルヒの場合、その馬が暴れ馬だったりする訳で、唱えた念仏が思わぬ方向に効き目を現すのだ。しかし、黙っていたら黙っていたで変な邪推をして、食ってかかるから性質が悪い。
「さては、自分が配役されていないのを妬んでいるのね!」
ご覧のように、どこをどう解釈すればそういう結論になるのか俺には皆目検討がつかない。
「あんたねぇ、これは世界を視野に入れた完璧な配役なの!個人の勝手な我侭はそっと物置にでも仕舞っておきなさい」
傍若無人の権化にこの言われようは無いよな。それにしても、世界を目指すという配役の一方の雄はこの場に居らず、もう一方はさっきから困惑した表情で右往左往している。小動物にも似た愛くるしさを感じて癒されるといったら可哀想だろうか?
「無理です…わたし主役なんてできません…」
小声で抗議する朝比奈さんの言葉なんか、戦艦と真正面から撃ち合った装甲巡洋艦のように勝負になる訳も無い。
「何を言ってるのよ、みくるちゃん。もっと自分に自信を持ちなさい!」
輸血のように自信を分け与える事ができるならハルヒから朝比奈さんへ、少し分け与えた方がいいかもしれないな。その方が世の中の為にもなりそうだ。
「みくるちゃんは他の人には無い天性の大きな武器を2つも持っているのよ!それを充分に活用しないなんて、宝の持ち腐れもいいとこだわ」
答えは聞かなくても解るが、朝比奈さんは本当に自覚が無いようで、
「それは何でしょうか?」
「ロリフェイスとおっきな胸の膨らみよ!」
『お前の取柄は見た目だけだ』と言われて良い気分になる訳ないよな。だけども朝比奈さんは良く解ってないご様子で「はぁ?」と小首を傾げている。
「ロリ顔で巨乳といったら、世の男性が放っておく筈もないわ!近所の爺さんも『ロリ巨乳最高〜』って言ってたもの、老若を問わず対男性用の萌え兵器としてはこれ以上は望むべくもないわね!」
お前のご近所の話なぞ知ったことじゃないが、その意見には賛同するしかないな。
「そういった訳でみくるちゃん!そのエッチぃ体とプリティなフェイスで世界中の男達を誑かそうじゃないの!」
「あの〜わたし、たぶらかすとかそういのできまへぇん…ひゃあ〜」
語尾が悲鳴に近い声に変わったのは、ハルヒが朝比奈さんの豊満な胸を背後から揉み始めたからで、いつもながらの展開に呆れるやら目のやり場に困るやら羨ましく思うやら、つい自分の小振りなのと比べてしまい物足りない気分が湧き上がってきてはそれを否定する。
そんな葛藤で対処が遅れたが、そろそろ『お姉様』の救援に向かった方が良いだろう。俺が一歩を踏み出したのをまた曲解してハルヒはこんな先制攻撃を仕掛けてきた。
「何?キョン子も混ざりたいの?さては、あたしに姉妹揉み比べを提供してくれるって魂胆ね。いい心掛けだわ!」
そんな企図なぞ最初から用意してねぇよ…。ところで、これ以上用が無いんだったら帰ってもいいか?
俺は、ワキワキと指を蠢かせて今にも襲い掛かってきそうなハルヒの虎口を逃れる為にそんな事を言ってみた。当然、そんなものが通じる訳もなく。
「用なら勿論あるわよ。映画作りに一番必要なものを調達しに行きましょう」
やはりそういう展開になるのか。細部が変わっていても基本的に流れは一緒だな。この後は、ハルヒがスポンサーと称する商店街の面々へと案内され、そこで機材入手の運びとなる訳だ。
その対価がどんな形で支払われるのか解っているのだから、ハルヒが店主の方々とこそこそするのを醒めた目で見てしまうのは仕方ないよな。それにしても、女の腕力だとビデオカメラやモデルガンが重いったらありゃしないな。
そうとも、俺はディテールが違いこそすれ同じ出来事の繰り返しに安心していたのだ。その細部の大きな変更点である処の俺が女になっているという点を考慮にいれていなかったのだ。やっぱり多少知っている位じゃ全てを悟るには無理があるんだな。そのツケは近い内に払わされる事になる。
次の日。えっちらおっちらと俺は持ち帰らされた撮影機材に演出道具の山々を抱えながら長い坂道を登っていた。か弱い女の子の細腕で持ち運ぶ重量じゃないぞ。
「おはようキョン子ちゃん、ってどうしたのそれ?」
眼鏡の奥の目を丸くして、由良さんが話しかけてきた。
「一個持とうか?」
俺はその提案に有り難く乗らせて貰い、スーパーの袋に入った荷物から軽い方を手渡した。
「何これ?ピストル?玩具よね?何に使うの?」
袋の中を覗きこんだ由良さんが疑問を俺にぶつけてくる。まぁ無理もないだろう、女子高に必要なものとは到底思えないからな。
俺はハルヒが映画を作ろうと言い出して、その為に必要な小道具なのだと言う事を教えた。
「成る程、涼宮さん絡みなのね……。大変ね、キョン子ちゃんも……」
まったくだ。
「だけど、涼宮さんと友達になれるのってキョン子ちゃん位だから頑張ってね」
友達という関係なのか?手下とか構成員とかそういった言葉の方がしっくりくるような気もするが……。自分で言うのも何だな。
「あはは……確かにそうかもね」
屈託の無い由良さんの笑顔と普通の反応に心が休まる。恐らく谷口が居ない替わりの仲の良いクラスメイトなんだろうが、この方が何倍も嬉しいぞ。坂道を歩いて揺れるポニテも鑑賞し放題だしな。もっとも、俺の頭の上でも揺れている訳だが。
「それにしても映画ねぇ……どんなの作るの?」
さぁな、ハルヒはまだ何も教えてくれないし、きっと考えてもいないんだろう。尤も、俺が知ってる内容と同じだとすれば衆目に晒すのも憚れるようなチープな内容なのだが。
その後、学校に着くまでに由良さんと様々な映画談義に興じる事になった。女性ってやっぱり男優に目がいくんだな。
さて三日目ともなれば多少は慣れてきたもので、放課後までの道程は多少は平坦に感じられた。それでも今日は体育の時間なんてものがあったから多少は手間取ったものの、役得として心の中にそっとしまっておく事にしよう。
いつもの部室に行くと中から悲鳴に近い声が聞こえてくる。朝比奈さんをハルヒが無理矢理に着替えさせているのだろう。きっと映画のあのコスチュームに違いない。以前ならば部屋の前でタイミングを見計らっているのだが、今のこの状況ならば大丈夫だよな?何しろ初日には一緒に着替えを体験した訳だし、朝比奈さんの妹分なんだし。
念の為にノックをしてから中へと入る。
下着姿の朝比奈さんがウェイトレス衣装を構えたハルヒと格闘していた。無理矢理脱がされたという事を散乱した制服が如実に物語っている。
「あぅぅ……。キョン子ちゃん〜」
なみだ目で俺に助けを訴えかけてくる朝比奈さん、一方のハルヒは邪魔するなと睨みを利かせて主張してくる。捨てられた子犬と目が合ったのにも似た状況だなと思った。飼ってやりたいが親に怒られるんだよなといった感じだ。
『家では飼えないわよ!』と言う替わりに、ハルヒはこんな懐柔案を俺に提示してきた。
「映画の衣装をね、合わせてみようと思うのよ。キョン子も見たいでしょ?みくるちゃんのこーんなウェイトレス姿!」
広げて見せられたのは既に見知った衣装だとはいえ、魅力的な『戦うウェイトレス』の姿がもう一度見られるというのならば、それを阻むという選択肢は俺には選べない。何度見ても良い物は良いのだし、ここで助けに入った処で何も状況が変わる訳ではないだろう。
俺は返答する替わりに無言で運んできた映画用の小道具と機材をテーブルの上に置き、それらを袋から取り出すと椅子に腰掛けてビデオカメラのマニュアルなんぞを広げた。こんなものに頼らずとも撮影の仕方はマスターしているのだが、これは視線を隠すカモフラージュなのだ。お解かりの通り、俺の目線はマニュアルなんぞ一文字も読解する事なく半裸の朝比奈さんとハルヒの格闘戦に注がれているという訳だ。
不意に背後からの視線を感じた。覗き見を咎められたように思えて、ビクッと身体が反射的に動く。黒いマントと黒いトンガリ帽子を被った長門がそこに立っていた。
いつの間に来たんだ……脅かすなよ。
無反応のままに立ち尽くす視線の先を追っていけばカメラの取説に辿りつく。読みたいのか?
小さな頭が肯定を意味する軽い頷きで揺れた。
俺がそいつを手放すと、いつもの位置に長門は帰っていった。さてと、これで本当に手持ち無沙汰になってしまったぞ。
困ったなといった感じで視線を戻すと、ハルヒの魔手が朝比奈さんのパンツを脱がさんばかりの勢いで掴んでいた。片手なんか股座を押さえていて、ここからだと中指が内側に入り込んでいるようにも見えるぞ!
なんてうらやまし……いやいや、幾らなんでも行き過ぎだろう。
「ウェイトレスのパンツといえば黒の方が良いわよね?清純な外見に潜む魔性の魅力っていうギャップが大事なのよ!」
お前の主張は解らんでもないが、そんな映像を文化祭で上映できる訳ないだろ。
「見え無いところにも気を配ってこそ良い画が撮れるってものでしょ!でもまぁいいわ、撮影は今日じゃないし」
ようやく開放された朝比奈さんは目に涙を浮かべながらも、諦めたのか忠実なのか短いスカート丈の衣装に自ら脚を通していく。こうして朝比奈さんの可愛さを更に倍増させる、完全無欠のウェイトレスが誕生した。短い裾を恥らうように押さえる仕草がまた良いのだ。
その出来栄えを確認すると、ハルヒは得意そうに胸を反らせた。
「良いじゃないの!ねぇ?」
お前に言われなくても解ってる。それにしても知っていた事とは言え、再び生で拝見できたのは嬉しい限りだ。
「キョン子も着てみたい?」
女の子が衣装を羨望の眼差しで見ているのだから当然といえば当然の言葉なのかもしれんが、生憎と俺はそれを装備できるだけの女性経験を有している訳ではないのだ。似合いそうもないからと、謹んで辞退させて頂こう。
「そうよねぇ〜。キョン子じゃ胸のトコなんか余りまくりそうだもんね!」
微妙にグサリとオトメ心に言葉が突き刺さるような感じだが、多分気のせいだろう。そういう事にしておいてくれ。
「すいません。遅くなってしまって……」
部室に入ってきた女版の古泉は中を見渡し、
「おや?これはこれは……華やかですね……。ボクも劇で着る衣装で来れば良かったですかね?」
誰に同意を求めている訳でもないのだろうが、この古泉ならば積極的に見てみたいな。俺の視線に気がついたのか、こちらに微笑みかけてくる。普段と変わらない作り笑顔だが女性の顔立ちだと心に安らぎが芽生えるような気がする。元の世界でも同じように感じるようにならなければいいが。
俺がそんな発見をしている頃、ハルヒは別のものを今更のように見つけていた。
「ちょっと有希!それいいじゃない!」
怪しい黒ずくめな魔法使いの出で立ちのまま、部屋の片隅で読書に耽る長門を捕まえては質問をマシンガンのように浴びせかけ始めた。
結局、その日も大筋では俺の知っている世界の歴史と同じ道を辿り、朝比奈さんの衣装合わせと配役の発表だけで解散と相成った。そうと解れば前もって手段を講じておいた方がいいだろう。どこまで予防できるか解らんが、これから待ち受ける災厄を少しでも軽減する事が出来るのならば、やっておくに越した事はないからな。
俺はハルヒを除くメンバーを呼び止めておく事にした。配られた配役表を握り締めたまま、あうあう言ってる朝比奈さん以外はすぐにも帰りそうだったしな。
「それで話とは何でしょう?」
今回の映画の事だ。
「ああ……。配役の事でしたら問題ないでしょう。あくまで映画の中であって……」
いや、ハルヒの良識ならば当てにならない可能性が高い。俺の知っている通りならば映画の撮影が色々な影響を現実に及ぼすだろう。
「予言ですか?まるで知っているような口ぶりですが……」
ちょっと訳有りでね、俺は数ヶ月ならば多少は先の事を知っているんだ。
「未来の事が解るなんて凄いですねキョン子ちゃん!」
朝比奈さんに感心されるのは嬉しいが、それでいいのか未来人。まぁ、この天真爛漫さが魅力でもあるんだけどな。
「それで、具体的にはどんな事が起きるのですか?」
そうだな……朝比奈さんの目からビームが出る。
「ひぃ」
可愛らしい悲鳴を上げて、朝比奈さんは片目を押さえた。
「それは興味深いですね。しかし、どうしてまたそんな事に?」
ハルヒが何か必殺技を望んだからだ。その時のやりとりは、今でも鮮明に思い出せる。みくるビームだとか冗談にしか思えなかったもんだ。
「成る程。いやはや涼宮さんらしいですね。今から予防できますか?」
古泉に振られて、それまで何の反応も示さなかった長門が口を開く。
「可能。すぐにでも抗体を合成できる。詳細を……」
まぁ待て長門。ハルヒの事だから手段を講じたとしても、俺達の思いもよらぬ方法で同じような事を具現化させる筈だ。
「充分にありえますね」
ハルヒ専門家のお墨付きだが、嬉しくもないな。朝比奈さんなんか小刻みに震えているぞ。
「お手上げですか……」
まぁ、しょうがないさ。結局は出たトコロで勝負するしかない。とりあえず、これから何かが起きるものだと思っていて欲しいという事だ。心構えが出来ているだけでも違うだろ?
次の日もやはり俺の憶えている予定表通りに事は進み、商店街まで野外ロケを敢行する事になった。撮るのはCMだと解っているからその事でいちいち呆れたりはしない。予め朝比奈さんに知らせておいたのだが、心の準備は万端ではないようで電車の中で小さくなって震えている。そりゃ、いくら事前に解ったからといって、露出度の高いウェイトレス姿のまま公共交通機関を利用するという仕打ちは傍から見ていても痛ましい。ジロジロと凄い見られているしな。
ここまでは朝比奈さんに同情していたとはいえ他人事だった訳だ。商店街の電気店でCM撮影の第一弾が始まった時でさえ、カメラ越しに声援を送るだけだった。
「なんか違うのよねぇ……」
ハルヒがぶつぶつと呟いている。この後、俺の記憶と同じならば朝比奈さんはウェイトレス姿からバニー衣装への変更を余儀なくされる筈だ。事実、衣装が入っているであろう袋を持ったハルヒは朝比奈さんを店の奥へと連れ出して行った。
「ここまでは、あなたの言った通りですね」
古泉が話しかけてきた。
「このまま、何事もなければいいのですが」
まぁ、今日の所はCM撮影をするだけで終わりだ。まだ映画本編を撮っている訳じゃないから、現実世界への変な副作用が現れたりはしないさ。確かに世界への影響はなかった。けれども、そんな事よりも重大とも思える災いが、俺の身に直接降りかかってきた。具体的にはハルヒが店の奥から現れて俺に手招きをしてきたのだ。
店の中へ来い?カメラで着替えでも撮るのか?
「それは、いいから」
何だ。着替えを手伝うのか?そうか、お姉様の手伝いをするのは当然の役目だもんな。俺は本当に何も見えて無かった訳だ。可能性をわざと頭の中から控除していたのかもしれないな。
店の奥、倉庫となっている場所に足を踏み入れると半裸の朝比奈さんが泣きべそを浮かべながら赤いバニースーツを抓み上げている。生の乳房に目が奪われてしまうのは仕方ないよな。
「これに着替えて」
ハルヒが袋を俺に押し付けてくる。
まさか俺にもコスプレ姿をさせる気なのか?中身は、何という事だろう……朝比奈さんと色違いの黒いバニースーツではないか!
「べっ……別にあんたに役を割りふった訳じゃないわよ。CM撮影なんだから華は多い方がいいし、姉妹バニーが店を盛り立てるってのは売れ線だと思わない?」
む……。一理はあるかもしれないが、俺に要求するには難易度が高すぎる。確かに部室ではメイド姿にもなったが、衆人の目に晒された屋外で肌の露出も多いバニーの格好をするだなんて、女の子としては若葉マーク付き初心者である俺に高速道をぶっちぎれ!と言っているようなもんだぞ。
「何を今更恥ずかしがってるの?あんなに色々な格好をみくるちゃんと二人で仲良くしていたじゃないの!」
この世界の俺は今までどんな仕打ちを受けてきたんだ?ええい、仕方ない。こうなったら俺も中身は男だ、腹をくくって行こうじゃないか!朝比奈さんに悲しそうな目で見つめられるのに弱いってのもあるがな。よく考えたら毎日女装姿を衆目に晒して生活しているのだから多少の耐性がある訳だ。
覚悟を決めて袋の中から衣装一式を取り出す。薄い布地のバニー服本体に、黒いパンティストッキング、そして小さな布が一枚。何だこれ?広げて見れば、いつぞや見たような際どい切れ込みのパンツであった。成る程、こういう衣装の時に履く下着であった訳かと納得する。
「ほらほら早く脱いで!なんなら脱がせてあげようか?」
問答無用とばかりにハルヒは襲い掛かってくる。引っ張るな!くっつくな!む…胸が当たってるぞ!というか、何処にまで指を入れているんだよ!
「ず…ズルイです!姉のあたしにもやらせて下さい」
半裸のまま朝比奈さんまで加わって、柔らかい肌にもみくちゃにされて気持ち良いやら、無理矢理で痛いやら。
ふ、二人とも、独りで出来るから少し離れていてくれないか?
何とかして離れると、半端に剥がされた制服をきちんと脱いで、下着から替えないと駄目なのだからスリップも脱ぎ捨て、パンツまで替えるのか。
いくら屋内だとはいえ、他人の目があるのに全裸にまでならなければならないとはな……朝比奈さんもハルヒも凄い目線で俺の方を観察している。恥ずかしいから見るなよな。つい無意識に股間だけでなく胸までも隠して科なんかも自然と形成されて、女の子な仕草に自己嫌悪しながらも、柔らかい自分の胸をついぞ触って楽しんでしてしまう。
「あんたが、ちゃんと出来るか見守ってあげてるんでしょ」
「です」
二人の意見が見事に調和する。俺は小学生かよ。
素早くパンツを取り替えると、次はパンストを履けばいいのか?勿論、これを身につけるのは初体験だ。脚を通すと伸びていきピッタリとフィットしていくナイロン地の感覚は何だか妙に心地良く感じる。それにしても随分と薄いから誤って破ってしまいそうで怖いな。
残るバニースーツの本体も手早く着込んで完成だ。股間に凄い密着する感じが落ち着かないし、胸の押え付けも何だか不安になる感じだ。向こうで同じく準備完了した朝比奈さんもボリュームがあって零れ出しそうなのも不安だろうけど……やっぱりコレもう少しボリュームが欲しいかもな。揉み応えもありそうだし……。
「じゃあ仕上げにこれね!」
ハルヒからバニー耳が手渡された。ここまで来ればそれ位のオプション追加では驚かないな。
「うん。やっぱりそれ似合うじゃない!」
「本当。キョン子ちゃん可愛いですよ」
二人からのお墨付きだが今ひとつ俺には実感できない。自分からじゃ下半身くらいしか確認できないからな。黒いストッキングに包まれた脚は白い地肌が透けて見えたりして大変色っぽくて、自分のなのに脚線美に魅了されてしまう。あと、股間にピッタリ張り付いている様も大変に際どい映像で、我が身に降りかかった事でなければ素直にこの映像を楽しめるのだがと恨めしく思う。
「さぁ、行くわよ!」
ハルヒに先導されて、ついにこの姿で表舞台へと上る時がやってきてしまった。
「このお店は……」
マイクを持った朝比奈さんが賢明に宣伝文章を読み上げている。その後ろで看板を持った長門と並んで、俺は商品を掲げていた。撮影は古泉が行っている。
天下の往来での撮影なので、当然のように道行く人々からの視線が容赦なく降り注いでくる。中には北高の制服姿まであって、明日辺り噂が広まる事だろう。頭が痛くて溜息が出そうだ。
「カット!ちょっとキョン子、不景気そうな顔をしないでよね!それじゃ売れる物も売れなくなっちゃうでしょ!もっと株価もストップ高になる位に明るい笑顔を振りまきなさい!」
こんな感じでCM撮りは続けられる。二軒目の模型屋では朝比奈さんと二人でモデルガンの撃ち合いの真似までさせられた。
「銃と美少女の取り合わせは古今を問わず解り易い訴求力よね!」
一体、どこの層をターゲットにして宣伝をするつもりなんだ。
「勿論、客層を考えているわよ。この手のモノを買いに来るのはそんな人達ばっかりだってね!」
偏見だろそれは。それに最初の電気屋も同じ客層なのか?
「プロデュースに口を挟まないで、キャンペーンガールは愛想を振りまいてなさい!」
余り振り撒きたくないんだよ。無駄に恥ずかしいんだぞ、この格好でいるのは。朝比奈さんなんか休憩中は物陰に隠れて縮こまっている。
しかし、羞恥プレイは終ってはいなかった。ほうほうの体で撮影を終えた俺達に待ち受けていたのは、このまま電車に乗って部室へ戻ろうというハルヒの言葉だった。
ちょっと待て、着替えさせろ。
俺の抗議に帰ってくる答えは「もう遅いし、映画の話題づくりになるからいいじゃない」という奇妙な論理であった。
「それに、みくるちゃんを一人にさせる気?」
そうだった。朝比奈さんはウェイトレス姿でここまで連れて来られたのだから、着替える制服は部室に置き去りなのであった。
かくして、姉妹手を取り合って電車の中で小さく人目を避けるようにしなければならなかった訳だ。勿論、バニー姿の女性が二人でくっつきあっている姿が目立たない訳もなく、会社帰りのお父さんやら学生やらに目の保養を無料奉仕せねばならなかった。
ジロジロと人の胸元や股間に熱視線を送るのは止めてくれ、気持ちは解るが気分は良く無い。
精神的な耐久力パラメータを無駄に鍛えさせられ、部室に到着するとハルヒはマイペースに明日の撮影スケジュールを告げて去っていった。まさか、明日からもこんな格好を俺にもさせる訳じゃないだろうな?
「本当に今日はお疲れ様です」
古泉が話しかけてきた。いつもならばその同情は疎ましく思ったりもする時もあるが、女性版古泉からだと無条件に嬉しいね。とはいえ、今日の苦労に対する報いがこれだけなのは寂しい限りだな。そう思ったら違うところから報酬が舞い込んできた。
「それじゃあ、キョン子ちゃんお願いね」
朝比奈さんが脱ぎ捨てたバニー衣装を袋に入れて俺に渡してきた。プレゼントなどではく、洗濯をするのが妹としての役目だというのは知らされているが、それにしても脱ぎたてのコスプレ衣装を渡してくるなんて……。別にやましい気持ちは無いぞ。
それから、朝比奈さんと古泉と一緒に下校の道を歩いた。ここ最近の日課になっているとはいえ、気分は両手に花だな。女三人集まると、このメンバーでもかしましい感じになるもんだ。
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